カタールの首都ドーハ
新海誠監督による大成建設のアニメCMの舞台探訪でカタールへ行ってきた。「カタールってどこそれ?」って人がほとんどだと思うが、たった15、30秒のCMからカタールと日本との間で今も脈々と続く意外な関係を見ていくことができるのだ。
イスラム文化センター
新海誠監督によって制作された大成建設のCM「新ドーハ国際空港」篇には、大成建設の社員が新ドーハ・ハマド国際空港の建設のためカタールで仕事や生活をする様子が描かれる。街中の描写ではカタールの首都・ドーハのイスラム文化センター(ファナール)が登場。渦巻のような螺旋の塔はどこから見ても目立ち、旧市街のシンボル的建物になっている。
しかし、イスラム文化センターが作中の角度から見える位置に行ってみたが、周りの建物が一致しないため、恐らく後述のスーフ・ワキーフと合成されていると思われる。再開発されまくっているのでもしかしたら昔は本当にこうだったのかもしれないが。
イスラム文化センターはイスラム教の説明が書かれた展示や図書館、祈祷室などがあり無料でイスラム世界について学ぶことができる。
無料で3冊も日本語訳の本をもらってしまい、これを読めば帰りの航空機の中も退屈せずに過ごせそう。日本語が話せる人もいるようだが、その時は外に出ているようだった。
夜のライトアップもなかなか。
新海誠CMに描かれた嘘
新海誠監督による大成建設の新ドーハ空港のCMをもう一度見てみよう。ここには明らかに嘘が描かれている。
何かと言うと、ドーハの街中には
白装束を着たアラブの人なんてほとんどいない。
これはドバイの鉄道の新線建設現場だが、オイルマネーの建設ラッシュに沸く中東でこれらの現場で働いているのはインド、パキスタン、バングラデシュなど元イギリスの植民地だった国を中心とする外国人労働者(以下めんどくさいのでインド人と表記)。
カタールの人口比率のほとんどは出稼ぎの外国人で、カタール人は20%くらいしかいないらしい。
そしてカタール人は公務員でも年収1600万円とかめちゃくちゃ金持ちらしいので、わざわざ下町になんて出てくる人はほとんどいないだろう。
テレビで中東特集があると白い民族衣装のカンドゥーラ(ディスダーシャ)を着てる男性や顔だけ出した黒装束の女性の映像が映され、確かにこういう人たちもたくさん見かけるが、実際はほとんどインド人ばかりなのでメディアによって作られたイメージに騙されていたことに気がつく。
大成建設のCMでもこうした世間一般の中東のイメージというものがあるので、インド人をばかり書くわけにはいかず恐らくアラブの人を多めに盛って描いたのではないだろうか。
インド人でスシ詰めのカタールのバス車内。
カタールの街に出るとタクシーやバスの運転手や売店など給料の安そうな職業はみんなインド人、インド人、インド人。建設ラッシュでどこ行っても工事をやっていてどこもかしこもインド人しかいないので、インドに迷い込んでしまったのかと錯覚しそうなくらい。
飛び込みで安そうな食堂に入ったら南インド料理のお店で、暑くて飯食う気にならなかったせいもあるが200円でお腹いっぱいだった。
スーク・ワキーフ
たぶんインドのスパイスなどが売ってるお店。
街中を歩くシーンは恐らくイスラム文化センターの近くにあるスーク・ワキーフ(Souq Waqif)。スークは市場のことでこちらは観光地化されている。しかし火事になって再建されたものらしく、真新しい建物が多くていかにも観光地っぽい雰囲気に変わってしまっていた。大成建設のCMでは水タバコの売店が映っているがいろいろ探したけど見つからず。
石畳に白い建物が特徴的で、漁に使うと思われる網や奥にペットショップなどいろいろ。
大成建設CM冒頭のカットの建物のように壁から横木が飛び出してるのも特徴的。
このように立派なオープンテラスのレストランやカフェもたくさんあるが、くそみそに暑すぎてほとんど人がいない!
中東は暑いけど乾燥してるだろうと思ったら、海沿いなせいか湿度がかなり高くドバイもアブダビもカタールも外に出て5分も立てば汗が全身から吹き出るような感じで、夜になると涼しくなるかと思いきや湿度が飽和して不快指数マックスなんじゃないかと思うほどで、
夏にはもう二度行くまいと心に誓った。
ダウ船
ダウ船。
カタールの伝統的な木造のダウ船が多数停泊しているが、恐らくほどんどは漁船ではなく観光客向けの船。しかし夏は暑いからか営業してる感じはしなかった。
CMに出てきたのはたぶんイスラム文化センターやスーク・ワキーフから比較的近くのコーニッシュ プロムナードだと思うけど岸壁部分や地面の模様が違うので当時とは変わってしまったのか、それとも別の場所なのかイマイチよくわからず。
左側に見えるのはイスラム芸術博物館で入場無料。中東はオイルマネーのおかげか博物館は無料が多く、金持ち国なので物価高そうとビビっていたら、水やタクシー代も安くてお金かからないのは嬉しい。
イスラム文化センターもよく見える。
ラクダ
ドーハのラクダ市場?
大成建設の新海誠CMでは砂漠を歩くラクダのカットがあるが、乗り継ぎで1日しかなかったので砂漠を見る余裕はなかったためラクダ市場に行ってみた。
スーク・ワキフのすぐ隣にそれっぽいものを発見。太陽の光を少しでも浴びないように太陽の方向に向かって座るというのは本当だった。
小さい広場で人も全くいなかったので「ラクダ市場ショボッ!」と思ったが、どうも本物のラクダ市場はもうちょっと離れたところにあるようだった。
日本とカタールの意外な関係
真珠の巨大なオブジェ。
カタールと聞いてもほとんどの人には馴染みのない国でせいぜいサッカー・ワールドカップのドーハの悲劇くらいしか思いつかないと思うが、意外にもカタールと日本との関係は深い。
ドバイ博物館で真珠採りの様子。右側に潜水夫の人形、左側に潜水道具をつけてる写真。
かつてドーハや他の中東諸国はまともな産業といったら真珠くらいしかなかったらしく、天然真珠を素潜りで採集していたようだが、日本が真珠の養殖技術を開発したせいで壊滅的打撃を受けたそうだ。
身を守る木綿の服や亀の甲羅でできた鼻栓をして水深20メートルまで何度も潜って真珠貝を必死に取り何とか食いつないでいたところに真珠価格が暴落したらたまったもんじゃなかっただろう。
戦後、中東はオイル景気に湧き、カタールにも巨大なガス田があることがわかっていたようだが、中東情勢の悪化などで資本は入らず自国で産出する金も技術もなく足踏みしていたところ、中部電力が契約を行い千代田化工建設がプラントを建設して世界最大の天然ガス田が誕生。秋田県ほどの大きさしかないカタールは今や世界一の金持ち国に躍り出ることとなった。
先ほどの海沿いの対岸にはドバイに負けないような超高層ビル群による摩天楼が広がっている。
この日本の恩をカタールは忘れていなかったようで、東日本大震災の時は被災地へ100億円を投じて「カタールフレンド基金」を設立して東北の復興を支援してくれている。
一時は真珠養殖でカタールをどん底に叩き込んだ日本が、戦後に資金や技術の提供を行ってカタールの発展の石杖を作り、震災では逆に支援してもらったり、原発が停止する中で火力発電の液化天然ガスLNGをカタールに大きく依存したりして、日本とカタールの深い関係は今も続いている。
新ドーハ・ハマド国際空港
新ドーハ国際空港。
大成建設のCMでは建設途中の風景だが、完成した空港を見ても大きくウェーブした外観と「X」の字状の太い柱ははっきりとわかる。
内部はこのようになっていて、撮影したのが出発階で下が到着階。ウェーブとX字の柱は空港内部でも目立つ。ちなみに新ドーハ国際空港の建設でも大量のインド人が投入されているはずなので、CMの背後にいる人達もきっとインド人なのだろう。
天井のウェーブは波をイメージしたものらしく、大成建設(とインド人)が建てたこの空港は、半島が飛び出してほとんどが海に囲まれたカタールと島国である日本との繋がりを彷彿させるようだった。
設備も立派で美しすぎる
できたばかりの新ドーハ国際空港は空間に余裕があってとにかくきれいで美しい。
さすが日本企業(とインド人)が建てただけのことはあるな!
スポーツカーなどの高級車が何台か展示され、当たるとベンツをプレゼント!みたいな企画もやっててすごくバブリー。
子供が遊べるような場所やパソコンブース、寝やすい椅子のクワイエットルームなど施設が充実しており千葉県の空港とは大違い。
新ドーハ国際空港は中東のハブとなるべく年間3000万人の利用を目指している。フラッグキャリアのカタール航空は五ツ星エアラインとしてサービスに定評があり、アジアやオーストラリアとヨーロッパやアフリカを結ぶ新拠点がついに完成したというわけだ。2022年にはワールドカップも開催も控えている。
いつか資源がなくなる日に備えて人の流れを作っておきたいカタールの国運を賭けた一大プロジェクトを大成建設(とインド人)が成し遂げたのはとても大きな意味があると思う。新たな玄関口から日本とカタールの関係は今後も続いていくこととなるだろう。
ただし、まだ工事中のところがあるようで一部入れないところがいくつかあった。そもそも2004年から建設開始で最初は2011年開港だったらしいのがどんどん遅れて、結局全ての便が以降したのが2014年5月末らしく、9月に訪問してもまだ全部できてないのか、という感じだった。大成建設(とインド人)は本当に大丈夫なのだろうか。
大成建設のCMには「この空港が完成した時、僕はきっと涙を流すだろう」というセリフがあるのだが、
この空港いつ完成するの?
ちなみにカタールには王族専用ターミナルという日本ではちょっと考えられないものも存在し、これは竹中工務店(とインド人)が建設してるようで。
新海誠監督によるアニメとはいえ大成建設のたった15、30秒しかないCMだけど、実際に現地を舞台探訪してみると、中東の実情に加えてカタールと日本や日本企業との関係が今も脈々と続いていることを知ることができた。ドーハは「世界一退屈な街」と言われているそうで、確かに1日くらいトランジットでついでに観光すればいいや、という感じではあったが、中東の他の国、スペイン、ギリシャ、アフリカなどへ行くときに乗り継ぎで使うと便利なので大成建設(とインド人)が建てたすばらしい空港を見るついでに街の方へも出てみると面白いと思う。
ただし、夏だけはやめとけな!