全然違う!コミケ同人誌に使った安い印刷通販のクオリティと注意点を比較【個人情報流出】


コロナ禍以降の物価上昇や人件費の高騰などで同人誌を印刷してくれる印刷通販(インターネット印刷)の値上げも厳しい(同人印刷は高いもののコミケ会場まで搬入してくれるが、印刷通販は安い反面、原則自力搬入か宅配搬入となる)。同人誌印刷でよく使われる高クオリティのグラフィック、とにかく安いプリントパック、筆者がよく使う東京カラーの3社を比較して紹介する。※8月10日: 写真追加とアダルトについて追記


各印刷通販会社の所感

プリントパック

  • 175線
  • 業界最大手
  • ブラック企業大賞2016業界賞を受賞
  • 最安を競うが印刷はそれなりな印象
  • コロナ前後に関東に工場をたくさん建設
  • チラシや名刺などはファブレス工場のラクスルの方が安いかも?
  • 無料で事前に入稿データの不備を確認できるクイックデータチェック
  • 冊子もオンラインだけで入稿とチェックできるが注意点あり
テレビCMでも有名な業界最大手のプリントパック。最大手の強みを活かしてIT化と機械化を進めまくっているのか冊子も安い。

2017年10月に柏、2019年10月に木更津、2022年8月に本庄といった感じで関東に続々と工場を建設して関西から関東に攻めてきている。

冊子データを作成する時は、他社だと仕上がりサイズ+3mmの塗り足しをつけたデータを入稿すればOKなんだけど、プリントパックは少し特殊。例えばB5本の場合はA4サイズのアートボードにB5のトンボを作成して入稿する必要があり、ちょっと気をつける必要がある。

クイックデータチェックが優秀で、ページ数の多い冊子にも対応している。担当者の人間の目に頼らず自分で不備を確認にして入稿を確定させることができるため、ギリギリ納期の時は予期せぬ差し戻しがなくて助かる。しかも、入稿データをアップロードして問題がないかを注文前に無料でチェックすることができて便利すぎる。


グラフィック

  • 210線か280線
  • 業界二番手?
  • 工場は関西
  • 少なくとも印刷のクオリティだけは最強
  • 中綴じ冊子はまあまあ安いけど無線綴じはなぜか高い
  • コントラストが高すぎるので黒つぶれに注意
  • コミケ搬入できるコミグラ
  • シュリンク包装は有料
印刷通販なのにコミケ搬入もできるため同人作家で使う人が非常に多い会社。追加料金で280線になるグラフィックビジョン、1枚300円で写真の調整をやってくれる「おまかせ色調補正」などもあり、とにかく印刷のクオリティは間違いなく最強。表紙PP加工など印刷以外のクオリティは普通。

印刷はいいけど、コントラストが高すぎて暗部が黒つぶれしやすいので、事前にフォトショップでシャドウを持ち上げるなど調整する必要があり、何度か経験を積んで自分の中の最適解を探すしかない。もしくは追加料金で「おまかせ色調補正」を使う。このため、一度グラフィックを使ってしまうと再版や総集編をつくる際に写真の再調整をする必要があるため別の印刷会社を使いづらいのもネックとなる(もちろん色が薄くなるだけでそれほど問題はない)。

コロナ後は値上げがちょっと厳しく、冊子はセール時でないと使いづらくなってしまった。布ポスターはB1スエードが4500円だったものが3300円と安くなったので未だにお世話になっている。

なお、個人情報流出により500円のクオカードをもらったことがある。


東京カラー

  • 240線
  • 北千住本社工場で受取可能
  • 入稿日の受付基準は午前10時
  • 土日は入稿の受付日にならない
  • 2022年頃から色がまともになった
  • チリや毛のゴミが多い
  • シュリンク包装が雑で破損が多い
東武や京成に電車広告が出ている東京カラー。プリントパックやグラフィックなど大手への対抗心なのか印刷通販なのにデフォルトで240線と高クオリティ。

注意点としては、コロナ禍以降は土日は入稿の受付日にならないことと、入稿受付時間は午前10時であるということ。他の印刷通販は24時までに入稿して問題なく受理されれば翌日から製造日の計算が始まるけど、東京カラーはその基準が14時間早いのだ。例えば、金曜午前10時ギリギリに入稿するもそこで不備が見つかって再入稿して受理された場合、入稿受付日は月曜日となって製造日の計算が始まる(製造に入れば土日はちゃんと営業日として計算される)。この仕様により、筆者は何回か金曜日に不備が見つかり、10営業日プランを一度キャンセルしてから6営業日プランで発注し直したことがあるので注意が必要(土日の間にクオリティをアップさせよう)。

解像度は高いものの、プリントパックと同じく色ズレがやや多く、まともにメンテナンスしてないのかチリや毛のゴミも多く、黒ベタページなどにゴミが目立つ。シュリンク包装がとても雑で、10冊でひとまとめのシュリンクの場合、1冊目と10冊目の端が折れていることが多い。中央を紙でとめるだけのグラフィックのエコ包装の方がマシ。

北千住からちょっと歩くものの、刷り上がった日の夕方やイベント当日朝に工場で受け取って直接イベントへ行く、というアクロバティックな行動が可能なのも東京カラーの強みだろう。訪問してみるとめちゃくちゃ下町工場っぽい感じなのでちょっと感動する。


印刷サンプル比較

プリントパック 本庄工場 オンデマンド175線


入稿データのjpg。印刷はコート紙90kg。

以下のスキャンは雑にブラザーの複合機についてるスキャン機能の1200dpiで等倍切り出し。




2022年8月に開設されたプリントパックの関東における最新マザー工場と言える存在。

印刷された実物とスキャンデータを見ると、肉眼では印刷独特の網目がほとんどわからない高クオリティ。

オンデマンド印刷でもここまできれいに刷れるのであれば「もうこれでいいのでは?」という十分といったクオリティになった。とはいえ、オンデマンドならではの粉を吹き付けたようなザラザラした感じはどうしても残るので、これが嫌ならたくさん刷ってオフセットにするしかなさそう。

以前は安いなりの品質で、京都本社工場のオフセット印刷では知人の本で「こんなの刷り直しだろ」という色ズレがすごいものを目にした。私の経験では、入稿後1週間放置されたり、正規のAcrobatを使っていないのかpdf入稿で文字がズレて全部刷り直してもらったことがあった(pdf入稿の場合文字のアウトライン化は必須ではない)。この会社を使う時は発送日がイベント当日1週間くらい前になるよう余裕を持って入稿した方がいい。


背の部分に縦書き文字を入れたら途中から横にズレてしまった例。


グラフィック オフセット 210線


表紙データのjpg。印刷はマットコート135kg、クリアPP。イラスト: 秋櫻




さすがグラフィックだけあってきれいに印刷されており、肉眼ではほぼ網目はわからない。

同人誌の印刷でよく使われているだけあって、コントランストが高すぎる以外に印刷については特筆すべきデメリットはない。

グラフィックの注意点としては、以前は、不備ではないけど担当者が気を利かせて「これ大丈夫ですか?」と聞いてきた点に対して「そのままでOKです」と返信した場合は、入稿受付日がプラスされなかったが、現在はプラスされてしまうためギリギリ入稿は細心の注意を要する。入稿時の備考欄に「塗り足し3mm足りない部分、ノンブルおかしいところなどは全部無視してください」などと書いても今は無視されるので意味がなくなってしまった。東京カラーの入稿受付日から土日が除外されるのと同じく、価格からは伝わらない隠れ値上げが横行しているので注意が必要だ。

担当者に止められないちゃんとしたデータをつくろう。


東京カラー オフセット 240線


入稿データのjpg。印刷は表紙マット紙135kg、クリアPPあり。イラスト: NABLACK



通常の印刷通販は175線のところ、東京カラーはなぜか240線と40%くらい高密度。

印刷の網目はほぼわからないものの、メンテナンスがいまいちなのか色ズレするページがあり、複数カラーを使った小さな白抜き文字はやめた方がいい。



5ミリと8ミリくらいの毛が黒いスジとして出てしまった例。輪転印刷機のドラムにゴミがつくと印刷している間に取れない限り全部の本にゴミの跡が残ってしまう。



シュリンク包装時の端折れの例。こういう時のために予備が含まれているのだけど、予備が足りなくなりそうなくらいの数の破損が出る。きっちり隙間なくシュリンクされていても折れているので佐川急便のせいではないはず。



以前の東京カラーは同じC100%、M100%の紺色データを入稿しても全然違う色になっていた。

東京カラーは最大手のプリントパックが関東に工場をつくるのに対抗するために機械設備を新しくしたのか、2022年頃から色がまともになった。

プリントパックよりちょっと高いけど色がまともに出さえすれば解像度も高いので使える会社になったというわけだ。

しかし、一度だけ冬コミ前に「注文多すぎて無理なので来年にして?」って電話がかかってきて全力で断ったことを絶対に忘れない。


プリントパックとグラフィックの比較



2020年のグラフィックと2017年のプリントパック京都本社工場の比較。イラスト: 青桐

右側のプリントパックは色が薄く尿っぽい。最新の本庄工場で刷れば多分もうこのようなことはないだろうけど、まだオフセット印刷は試せていない。


雪の遅延リスクがないプリントパックと東京カラー

プリントパックは本庄に巨大工場ができ、東京カラーは千住関屋に工場がある。これはつまり関西から宅配がないため冬コミの時に雪で遅延するリスクがないということだ(関東在住の場合)。グラフィックで印刷した時は過去2回ほど雪で届かないのではとヒヤヒヤしたことがあった。

ただし、2024年夏のクリアファイルはプリントパックの京都から発送されたので、商品や刷るタイミングによってはまだ関西になる可能性はあるので注意が必要。

やめよう、ギリギリ入稿。


アダルトは基本不可

印刷通販では基本的に18禁は印刷することはできない。最近では断られるケースが多いからか「アダルトNG」とウェブサイトに明記されるケースも増えてきた。

@URAN1017さんや@CosNonKumasanさんによると、二次元絵と実写の両方でR15程度のトップレスでもプリントパックや東京カラーでは断られるものの、グラフィックならOKだったという。グラフィックも昔は厳しかったものの、コミケ搬入可能なコミグラを初めてBL本の入稿が増えたため制限をゆるくしたのではないかという話。18禁作家のおまけ本などでグラフィックが増えてきたのはそういうわけだったようだ。


自分に合った印刷会社を探そう

上記の通り、印刷通販も会社によってクオリティや入稿システムや担当者の対応は全然違う。とにかく安くてそれなりなものが出てくるプリントパック、入稿データちゃんと調整していればきれいに印刷されるグラフィックなど、何回も試して自分に合った印刷会社を探そう。


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