「響け!ユーフォニアム」のもじゃ主人公・久美子が好きすぎて何回も見直してたら、京都アニメーションの撮影処理が尋常じゃないことに気がついたので「響け!ユーフォニアム」を例にレンズ収差の解説も含めて紹介。
周辺光量落ち
SLR Magic 35mm F1.7で撮影。
ボケのある写真を撮る時や設計に余裕がないレンズで発生する、写真の四隅が暗くなってしまう周辺光量落ち(周辺減光)と言われる現象。
例えば、「響け!ユーフォニアム」第1話の中学時代の演奏の回想ではこの周辺光量落ちが出ている。
周辺画質の流れ
SLR Magic 35mm F1.7で撮影。
中央はピントが合っているが四隅にいくにつれて解像力が下がって"流れ"てしまっている(ついでに前述の周辺光量落ちも発生)。普通のレンズは、レンズからの距離がピントを合わせたところと同じであれば平面的に均一に写しとるが、このレンズは中央にピントを合わせると、端の方はレンズからの距離がピントを合わせた中央と同じであってもピントが合わない像面湾曲の現象が起きている。
演奏者を真横から撮ったカット。
同様に、普通のレンズなら真横から撮ったトランペットはどこもレンズからの同じ距離になるのでピントは均一で解像力に差が出ないはずだが、このカットでは左端にいくほど楽器がボケてしまっている。
色収差
Samyang 8mm F3.5で撮影。
四隅を切り出すと、地面の白い道路標識や白いレンガに緑や紫っぽく色がズレてしまっているのがわかる。これは倍率色収差で簡単に説明するとプリズムと同じ現象で色が分かれてしまって起きる。
「響け!ユーフォニアム」第1話の桜舞い散る中の下校シーン。
端の方の柵を見ると盛大に青と赤に色ずれして色収差が発生してしまっている。
やりすぎな収差を撮影処理で入れる京アニの手法
各話のサブタイトルも各収差がわかりやすいかな。
「響け!ユーフォニアム」ではありとあらゆるシーンで周辺光量落ち、周辺の流れ、色収差の複数が組み合わされて盛大に出ており、ダメ金ならぬダメレンズどころじゃなくてもはやクソレンズじゃねえか!となる。
静止画撮影の場合はこんなクソレンズを使うのはデジタル設計の現代ではまずありえなく、間違いなくオールドレンズマニアなどタチの悪い人間しかいないだろう(ちなみにSLR Magic 35mm F1.7は周辺減光と像面湾曲で普通のレンズで撮れない描写ができるのでマジオススメ!)。
動画撮影はよく知らないが、例えば広角レンズで左右に旋回させる時に四隅が引っ張られる感じがするのでわざと魚眼レンズのように歪曲したレンズを使うのは目にするものの、ここまでひどいレンズを多用することはほとんどないんじゃないかな。
第1話の朝もやがかかったような大吉山(仏徳山)。
周辺光量落ち、周辺の流れはピントが合う部分を少なくして主題をくっきりと浮かび上がらせる効果があり、色収差は独特の味や温かみを出す効果があり、組み合わせることで独特の空気感が出せるんだと思う。
収差が見られるシーンを探してみると、昔の回想、陽が斜めの午前や夕方の登下校、大会のステージ上などで、過去の記憶を辿るシーンや雰囲気を出したい部分で多用され空間に厚みのようなものをもたらしている。一般の撮影では見られないやりすぎとも言える収差を撮影の処理で入れてくるのが京都アニメーションのこだわりと言えるだろうか。
縮小したらわかりにくくなったけど、周辺の流れにより2人の髪と顔の端が少しボケているのがわかる。
焦点を合わせたキャラクタの顔をボカすというのは普通に考えればやりすぎのレベルだと思うが、ステージに立ったことある人なら誰もが経験したことがあるであろう、照りつけるライトの眩しさや熱さとこれまでの練習のせいかが今試されようとする緊張感で視野が狭まるあの感覚を表現するためにわざとボケボケにしたと考えれば自然なものと解釈できるだろうか。
収差とは少し変わるが、楽譜が映されれるカットではなぜかボカされて楽譜はほとんど読めないようになっている。ここではみんなが書き込んだ応援メッセージが自然に視聴者の目にいくよう、本当にさり気ないけど一手間かけてある。
オーブ
引き続き収差の紹介で、「響け!ユーフォニアム」第13話の演奏時には、たびたび白くて丸い玉のようなものがたくさん出てくる。
これは空中のチリやレンズについたホコリがレンズによってボケて写されると白く丸く映るオーブと呼ばれる現象。
・「たまゆら」の舞台竹原で"たまゆら"を撮る方法 判明した衝撃的な正体とは!?
オーブについては「たまゆら」に出てくる"たまゆら"と同じでこちらで詳しく紹介。
ゴーストとフレア
LUMIX G VARIO 7-14mm/F4.0で撮影。
・レンズの特性:フレア、ゴースト、収差
太陽など強い光源に向いた時に(逆光)、レンズや鏡胴に光が反射して光被りをする現象をフレアといい、全体的に白っぽくなってコントラストが低下する。これが丸い玉など形を持って写されるとゴーストとなる。
「響け!ユーフォニアム」の演奏時でも、オーブに加えてフレアやゴーストもはっきりと映っている。ゴーストはボケているのでわかりにくいけど。
写真撮影時ではよく悩まされる反面うまく利用すると雰囲気のある写真が撮れるように、「響け!ユーフォニアム」でもステージの空気感を出すために効果的に使われている。
オーブ、フレア、ゴーストあたりは「響け!ユーフォニアム」や京都アニメーション作品でなくてもアニメ制作では一般的に使われているが他の収差と区別するために念のため解説。
被写界深度で表現する前後と左右の関係
・響け!ユーフォニアムの被写界深度が浅すぎる。過去の京アニ作品との比較 – 玖足手帖・響け!ユーフォニアムのピントが映す音楽性のアニメ演出 – 玖足手帖
上記の記事によると「響け!ユーフォニアム」の被写界深度は他の京アニ作品と比べても浅いようで。
焦点が合っている距離(奥行き)が広い被写界深度が浅くすることで、ピントを合わせた部分を主題として引き立たせるだけでなく、一点にだけ焦点を合わせた人間の目に近くなり、自然かつ美しいと感じる描写となるが、「響け!ユーフォニアム」ではこれを更に効果的に使っている。
トランペットで左右の並び。
ソロを吹く麗奈の左右に同じトランペットの吉川優子先輩と中世古香織先輩が並び、しばらくすると中世古先輩の方にスッとピントが合っていく。最終話以外でもたびたび同じようなシーンがあったが、3人それぞれの確執や中世古先輩の思いが記憶から蘇ってくるようでとてもよい演出だったと思う。
次は前後の並びで久美子と秀一。
久美子は秀一のことを異性とはまったく意識していなかったが、秀一はずっと後ろから久美子のことを気にかけ見守っており、久美子にピントが合っているところでさり気なく秀一が後ろに映り込んでいたりするシーンではこれを暗示させているのではないかと思う(冷静に考えると秀一くんマジキモイ)。
そしてステージを前にして緊張する久美子に「あんなに練習したんだからさ」と声をかける。
その時に常に前後の並びだった秀一と久美子が左右に並ぶこととなり、久美子が秀一を異性として意識するきっかけになったかはわからないが、2人が対等な位置に並んだということを表現したのではないかと思った。ただ、これまでもベンチで2人で座るシーンもあるのでなんとも言えないが、前後と左右の2人の関係は2期があれば今後も注目するべき点ではないだろうか?
という感じで、吹奏楽はただ座って演奏するだけでは動きが出にくくなるが、前後と左右の並びでピントを合わせる位置やピントの移動を見せることにより、吹奏楽部内の関係を象徴したりお互いを見守るシーンが豊富にあって、被写界深度の浅さを単純に空間の厚みを感じたり自然に見える以外の表現方法として効果的に用いるところは毎話見ていて本当に面白かった。
久美子の通学路となる宇治橋。
アニメ制作現場でこれらの収差や被写界深度を加える作業を撮影の処理で行う際にどのくらい手間がかかるのかよく知らず、アフターエフェクトなどを使えば比較的楽にできるのかもしれないが、これだけ頻繁に用いていたら結構大変なんじゃないかと思う。作画も最終話まで全然崩れる様子を見せず最後までこだわった撮影表現を見せてくれたところが、京アニの京アニたる所以なのではないだろうか。
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