中国の同人イベントに参加してQRコードによる電子決済システムのアリペイとWeChat Payを導入したら、9割近くがこれらの決済システムによる支払いで進みすぎていた。実際に中国の同人イベントで見たりサークル出店で活用してわかったことや日本の展望を紹介。
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アリペイとWeChat Pay
アリペイ国際バージョンの画面。
中国のQRコードベースの電子決済は中国の楽天的ポジションのタオバオや天猫を運営するアリババが展開するアリペイ(支付宝 / Alipay)、中国のLINE的ポジションのメッセンジャーアプリ・WeChatやゲームなどを展開するテンセントがWeChatの機能として提供するWeChat Pay(微信支付)の二強になっている。
アリペイは日本ではローソンやすき家、WeChat Payはドン・キホーテなどで対応しているのでアイコンを見たことがある人も多いだろう(外国人は越境できないので日本人がアリペイなどを登録しても日本では決済できない)。
一時はアリペイとWeChat Payのシェアは拮抗するところまでいっていたが、WeChat Payのセキュリティ周りの疑惑についてCEOが失言したとかでシェアが下がり現在はアリペイの方が優勢に戻っているそうだ。
同人イベントで実際に使ってみた
決済の流れ
アプリで出力したQRコードを印刷して同人イベントのブースに設置する。
アリペイやWeChat Payのアプリで同人誌を頒布する際の主な決済方法は下記。
- 客に自分のQRコードを読み取ってもらう
- 客が金額を入力して決済ボタンを押す
- 客はパスワード6桁を入力するか指紋認証を行う
- 決済が完了し売り手にも支払い情報が来る
中国に住所があればQRコードを印刷した紙スタンドを無料で送ってくれるのでそれを使っているサークルもよく見る。
また、事前に金額を指定したQRコードを作ることも可能で、本やグッズごとにQRコードを設定して貼り付けているサークルも多い。
電子決済のメリット
スマホ上で表示したWeChat Payのお金を受け取るためのQRコード。
中国の同人イベントでアリペイとWeChat Payを導入したところ、基本的に以下のメリットしかなかった。
- 現金の管理から開放
- 偽札のリスクがなくなる
- 管理や時間ごとの売上が表示されるので便利
- 端数の金額を設定しやすい
- そのまま中国の銀行口座に転送可能
時間ごとにどれだけ本が出ているかわかるので、混雑対策や休憩時間などを考えるのに使えそう。たしかPCだとエクセルでデータをダウンロードできたと思う。
海外から出展する場合は為替の影響を受けるので、500円の本を1元17円なら30元にし、少し円高になったら33 元や35元にしよう、といった現金では難しい細かい金額設定をイベントごとに流動的に変更することも可能。< br>
電子決済のデメリット
- 決済に時間がかかる
- ネットがつながらないと無理
- ほぼないが電子決済は電子決済の詐欺がある
- 一元管理するにはサークル専用の端末を作る必要がある
電子決済はやはり現金に比べて時間がかかる。買い手が決済ボタンを押してから売り手に通知が来るまで5秒くらいかかり、QRコードを読み取るところから全ての行程を完了するのに15秒はかかってしまう。
携帯電話会社の中継車が配備されていても日本のコミケのように電波が通じなくなるくらい混雑する上海COMICUPでは、サークルがWi-Fiテザリングしてあげないと決済できず、本を1冊頒布するのに5分以上かかるというギャグみたいな結果になった!< br>
決済端末を個人のスマホでやると、サークル主がトイレなどで不在の場合は相手の画面でしか支払確認ができないため、決済画面を偽装する詐欺もありそう。まじめに一元管理するにはサークル専用の端末を作ってサークル内で管理する必要がある。これは小さいサークルだと面倒なので諦めた。
隣のサークルのお金を間違えて自分に振り込まれて、しかも自分が不在の時で連絡を受けて慌てて戻った、なんてトラブルが発生したことも。
決済率は約9割 地方で異なる使用率
上海COMICUP 魔都同人祭
北京、杭州、成都、上海の同人イベントでアリペイとWeChat Payを導入したところ、アリペイ : WeChat Pay = 3: 1くらいでアリペイの方がシェアが高く、電子決済と現金では約9割が電子決済と日本から見たら驚くべき普及率だった。
上海近郊の杭州の同人イベントComic Bazzarに参加した時はアリペイ : WeChat Pay : 現金 = 8 : 1 : 1となり、さすが杭州はアリババ本社のあるお膝元、といった結果に。
上海COMICUPでは上記の通り電波が通じにくいせいか、もしくは地方からいろんな人が集まってくるためか、上海では現金率が2割と高めで地方によっても異なるのは興味深かった。
人民はマジで現金を持っていない!
私が中国に初めて行ったのは2016年2月重慶のイベントが最初で、2016年頃は現金のみでも問題なかったが、2017年春の上海COMICUPになると頻繁に「アリペイねえんか?」などと言われて、そのうち半分くらいは本当に現金を持っていないようで友達から借りていた人もいたが、そのまま帰ってしまう人もいて、せっかく海外から来たわけのわからんサークルの本に興味を持ってくれたのに読んでもらう機会を失ってしまったことへの悔しさを痛感した。< br>2017年後半くらいから日本の携帯電話やクレジットカードでもアリペイとWeChat Payをアクティベーションできるようになったので導入したところ、スムーズに決済できるようになり以前より手にとってもらいやすくなったと思うが、逆に今の中国の同人イベントに海外から参加するには電子決済はほぼ必須となってしまった。< br>
中国でもさすがに少数派だが、日本で暮らしていると、現金を持って歩かない生活ができる中国は本当に進んでいると思う。
銀行口座へ転送して日本円で引き出せる
アリペイやWeChat Payを導入すると、同人誌を頒布して現金が増えて財布が膨れて管理に困ることはないし、アリペイやWeChat Payで受け取ったお金をアプリ上で中国の銀行口座へ転送し、中国の銀行キャッシュカードには銀聯カード(中国クレジットカードで日本のJCBカードみたいなポジション)の機能がついているので、帰国後に日本のコンビニATMで手数料1.5%くらいでキャッシングとして日本円で引き出せるのは超便利だった。外国人の引き出しは年間10万元までらしく記録も完全に残るが、両替の手間が不要でマネーロンダリングすぎる!
ただし、2018年現在、長期ビザや税金支払がないと中国の銀行口座を作るのはほぼ無理になったので、去年までに銀行口座を作れなかった外国人旅行者は、 友達に土下座して転送したお金を現金化してもらうしか方法がない。
中国で電子決済が普及した理由
偽札が多すぎて現金が信用されてない
中国でアリペイやWeChat Payが爆発的に普及した主な理由として挙げられるのは、中国で偽札が多く現金が信用されていない、引き出し手数料が無料、またはほぼ無料という点にある。中国の同人誌即売会で日本人サークルが偽札を掴まされた!コミケでも気をつけて!
・中国のコミケでお金を騙し取られそうになった。巧妙な詐欺師たちの手口はこうだ! 前に海外のイベントで「お金払った払った詐欺」とでも言える現象に遭遇した話を書いたが、コミケでの安全意識の向上を意識して、今回は日本人サークルが偽札を掴まさ...
偽札には実際に日本サークルもいっぱい被害に遭っていて、ババ抜きのジョーカーレベルで普及しているのを痛感した。
2017年春の上海CUMICUPではお札の透かしをチェックするブラックライトを全サークルに配布、2018年春でも希望者に配っていたらしい。
単価の高いレストランやホテル、ショッピングなどでは現金を数えるのと同時に偽札チェックする機械が置いてあり、支払い時にお札を確認される。コミケなど日本のイベントでは大量に人をさばくために1000円単位でグッズセットの値段を揃えたりするが、中国の同人イベントだと企業ブースによってはおそらく現金の管理や偽札確認が面倒なので現金禁止のところさえあって驚愕した。
決済&引出手数料が無料
例えば、アリペイは決済手数料は無料で、累計2万元(約34万円)までは銀行への引き出し手数料が無料で、それ以上は0.1%手数料を徴収されるらしいが、それでも0.1%しかない。
業種によって異なるがクレジットカード決済の手数料は3~5%くらい支払うことに比べるといかに安いかがよく分かる。
このため、スマホさえあれば個人商店は同人サークルでも簡単に気軽に導入できるので、屋台のじーさんばーさんや同人イベントでも電子決済可能率はほぼ100%で、聞くところによると今や乞食ですらQRコードを掲げている時代らしい(私は見たことがない)。
中国の電子決済で起きていること
金利4%の金融商品で気軽に投資
アリペイを使っているとチャージされているお金を金利4%くらいの理財商品に投資でき、気軽にお金を増やすことができる(銀行は7~8%などもっと高いらしいが)。
0.003%しかない日本の銀行に預けておくのと比べれば4%なんて神みたいなもんだろ!と思ったが、さすがに中国大陸の身分証明証がないと無理だった!
このアリペイでの投資は結果的に若者の金融情操教育にもなっているらしく、ゼロ金利になれすぎて投資に後ろ向きな日本との差を知って愕然とした。
増やしたお金を同人イベントで景気よく使えるといいね!
現金も普通に使える
誤解を招きやすいのは、中国では電子決済が普及しすぎて現金が使えないんじゃないか、という話をよく見る。実際に行ってみるとそんなことは全然なく、少なくとも外国人が普通に観光する際には現金は問題なく使える。pixiv PAY&マーケットで行われる壮大な実験
日本のオタク電子マネーpixivPAY
pixivPAYの画面。
日本のQRコードベースの電子決済サービスはpixivが行うpixiv PAYがあり、同人イベントでの決済、pixivが展開するイラストSNS・ pixivや同人通頒のBOOTH、ファンコミュニティ・pixivFANBOXなどへの課金から始まり、将来的には同人誌即売会やアニメイトなどのオタクショップで幅広く使われ、オタク電子マネーとしてpixiv PAYを普及させて覇権を握るというpixivの野望が見て取れる。
そして、2018年6月10日にはpixiv PAYしか使えないpixivマーケットが初めて開催される。
中国の電子決済とpixiv PAYの違い
中国のアリペイやWeChat PAYでは振込手数料は無料か0.1%と激安だが、pixivPAYの振込手数料は200円で3万円以上は300円。現在は決済手数料の3.6%は無料だが、将来的には徴収する予定のようだ。※初稿で3.6%+10円と記載しておりましたが、現在は3.6%になったため修正しました。また、pixiv PAYはQRコードの使い回しができず中国のように印刷して貼りっぱなしにすることができない。これはQRコードをこっそり差し替えてお金をネコババする犯罪を避けるためと思うけど、毎回QRコードを表示したり、ブースに常時端末を置いておく手間が必要になるため、混雑度が半端ない< span class="font">日本の同人誌即売会ではわりと致命的であると思う。同人イベントにしろ店頭にしろ本気で pixiv PAYを普及させる気があるなら、QRコードを張りっぱなしですむよう仕様を変更するべきだろう。
pixivマーケットのサークルリストを見るとコミケの壁やシャッタークラスのサークルもたくさん参加するようなので、決済に手間取って 一部で阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは容易に想像できるけど、それも含めて今回の実験なのでどうなるのか楽しみである。
pixivマーケットの可能性
第一回pixivマーケットは、pixiv PAYの宣伝やイベントでの実験のためかサークル申込も一般参加も無料なようである。pixiv PAYで決済手数料の徴収が始まった後のpixivマーケットであれば、イベント運営費は全て同人誌やグッズの決済手数料でまかない、第二回以降のサークル申込も一般参加も全部無料にすることもイベントの規模次第では可能になる。< br>
将来的にpixiv PAYが普及してイベント規模も大きくなり、手数料収入がしっかり入ってくるようになって定期的に開催できるようになれば、同人誌の 頒布量が多いサークルがたくさん手数料を払うことでイベントを回し、あまり売れない< span class="font">駆け出し同人作家を結果的に育てるという理想的なシステムが出来上がることになる。< br>
例えばコミケはWEB申込みだと合計10100円かかって高いので、新規で入ってきやすい土壌ができるのはいいことだと思う。
pixv PAYがそこまで普及するかわからないし、手数料を払うことになるなら大手サークルから敬遠されてそううまくはいかないと思うけど、3.6%と安くはない手数料を徴収されるデメリットを逆手に取る良い例になりそうなのでpixivには大いにがんばっていただきたいところであると思う。
コミケでpixiv PAYを試す。将来の野望もわかったが本気度が足らなさすぎて絶対普及しないだろこれ
スマートフォンでQRコードを読み取るだけで同人誌即売会の本を決済できるイベント対面決済アプリ「pixiv PAY(ピクシブ ペイ)」をコミケで試してみた。 コミケ会場の自分のブースでは、公式サイトで公開されているポップを印刷して掲...
去年使ってみてボロクソに書いたけど、基本的に電子決済の未来には期待しているのでpixivも応援してますよ。
日本は手数料無料で覇権を本気で狙う企業が現れるかどうか
上海COMICUPの様子。水色と黄緑のQRコードをよく見かける。
中国でアリペイやWeChat Payを実際に同人イベントなどで使ってみて、特に日本では混雑対策などデメリットも多いけど、小銭を出さなくてもいいし、自転車シェアリングの決済にも使えるなどメリットの方が大きいのを実感することができた。
日本は中国ほど偽札がないので、中国のように同人イベントや中小の小売店舗にまで広く電子決済が普及させるには、決済手数料と振込手数料を無料かほぼ無料にするしか方法がないと思う。例えばアリババのアリペイやタオバオは基本無料で決済や出店ができるが、タオバオは出店が多すぎて広告出さないと売れない、売れるようになった出店者はまともな業者を集めた天猫に出店させて手数料を取るといった感じのビジネスモデルになっているらしく、テンセントは多分ゲームでめちゃくちゃ儲かっているので、電子決済はインフラとして割り切って普及させ、他で儲ける仕組みをしっかり作っているようなので、日本企業もそれと同じことができるかどうか次第だと思う。< br>
アリペイは日本展開のためのパートナー探しが難航する中で、メガバンク連合やゆうちょがアリペイやWeChat Payをパクった壮大な後出しジャンケンを仕掛けてくるので、それに期待したいけどどうなることか。
とりあえず、交通系やEdyなど日本で現在普及しているICチップベースの非接触電子決済はお店のポイントカード感覚で乱立しまくっているのは「本当にいい加減にしろ!」と思うので、 QRコードベースの電子決済もそうならないよう2社くらいに覇権を取っていただきたい。日本でも同人誌即売会や個人商店でも電子決済が当たり前の世の中になってほしいと切に願う。