那覇から船で15~17時間かかる絶海の孤島・大東島。月5~6便と不定期便で台風やシケによる欠航が多くて難易度がとても高いフェリーだいとうに乗って忘れられない体験をした。
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那覇から北大東島・南大東島まで400km
フェリーだいとう船内の地図より。
一般的に大東島と呼ばれるのは、沖縄本島から東に約400km行った大東諸島に属する北大東島と南大東島の2つの島となる。元々無人島だった大東諸島は八丈島出身者が開拓したので、島寿しなど伊豆諸島の文化と沖縄(琉球)の文化が融合した独自性を持つ。大東諸島にはもう1つ沖大東島というのもあるが、北大東島・南大東島から離れており無人島で上陸することはできない。
大東島へは船のフェリーだいとうとJALグループである琉球エアコミューターのプロペラ機(DHC-8)の2種類でアクセスできる。
琉球エアコミューターの航路は、那覇→北大東島→南大東島→那覇と、那覇→南大東島→北大東島→那覇といった感じの三角形状に運行しており、北大東島と南大東島間は日本最短路線としても知られている。
一方、絶海の孤島である北大東島・南大東島に必要な生活物資を運ぶフェリーだいとうは、船が690トンと小さくて車を載せるカーフェリーではないため貨物の上げ下ろしはなんとクレーンで行う。人間も檻のようなカゴに入れられクレーンで吊るされて大東島に上陸するというとても珍しい体験をすることができるものの、往復の全行程は4日間で、運行は月5~6便の不定期かつ台風やシケの影響で出発日が変更になることが多い。片道24時間かけて小笠原諸島へ行き全行程6日かかる おがさわら丸と並んで利用する難易度が日本で最も高いフェリーの1つと言える。
那覇とまりんでのチケットの買い方と乗船まで
予約はインターネット不可で電話のみ
フェリーだいとうの模型。
那覇と大東島を結ぶフェリーだいとうはインターネットでの予約などというナウい方法は使えず、大東海運か南大東島、北大東島の問い合わせ先に電話するか直接窓口に出向くしかない。
しかも、窓口は土日祝はしっかり休むようで、平日の昼間に電話するしかない社畜泣かせとなり、予約の時点で太平洋に浮かぶ絶海の孤島大東島への長い道のりが始まっていることを実感できる。
大東海運(株)
沖縄県那覇市前島3-25-5とまりんアネックス1F大東海運事務所
Tel: 098-861-0515
南大東村港湾業務課
沖縄県島尻郡南大東村字池之沢146港湾業務課
Tel: 09802-2-2003
北大東村建設課港湾
沖縄県島尻郡北大東村港81建設課港湾
Tel: 09802-3-6062
注意するべき点は、那覇→北大東島、南大東島→那覇のように買う場合は往復扱いにならず、しかも片道で買う場合は那覇の大東海運事務所では那覇→北大東島しか買うことができず、南大東島→那覇は代理店の南大東村港湾業務課で予約と受け取りする必要があったのでとても面倒だった。「来る者拒まず」だが「郷に入っては郷に従え」な感じで、「絶海の孤島に行くんだ!」という雰囲気が出発前から盛り上がるぞ。
ちなみに、チケットを予約する前に宿を取ったかを確認される。公共事業の土建労働者により大東島の宿はだいたい埋まっているので宿を必ず先に確保しよう。航空券より宿の確保が大変な太平洋の島国ナウル感ある。
フェリーだいとうの時刻表
フェリーだいとうの運行ダイヤは曜日不定で月に5~6便くらいとなり下記のように移動する。南大東島先航
- 那覇港17:00→南大東08:00(1日目→2日目)
- 南大東09:00→北大東10:00(2日目)
- 北大東16:00→南大東17:00(2日目)
- 南大東14:00→北大東15:00(3日目)
- 北大東16:00→那覇港07:30(3日目→4日目)
北大東島先航
- 那覇港17:00→北大東08:00(1日目→2日目)
- 北大東09:00→南大東10:00(2日目)
- 南大東16:00→北大東17:00(2日目)
- 北大東14:00→南大東15:00(3日目)
- 南大東16:00→那覇港07:30(3日目→4日目)
フェリーだいとうの旅客運賃
- 那覇-大東島 片道: 5790円
- 南大東-北大東 片道: 870円
- 那覇-大東島 往復: 11010円
- 大東島発那覇 往復: 9850円
前述の通り、那覇→北大東島、南大東島→那覇といった利用は往復扱いにならないので注意。
手荷物は2個20キログラムまでで、自転車は貨物扱いにしないといけないようだ。
那覇港での乗船券は当日の15時までに受け取る必要
那覇で美栄橋駅から徒歩10分くらいの泊ふ頭旅客ターミナル。
フェリーだいとうのチケットの予約は前月の20日の朝08:30からで土日祝は翌営業日となる。
チケットの受け取りは出発当日の場合8:30から15:00までに来いという無茶振りで(新港ふ頭の時は12時まで)、16時頃に事務所を訪問してチケットを受け取りそのまま17時発の船に乗船といった行動はできない。出港直前は準備のため窓口を閉めるからだと思われるが、特に注意が必要である。このため、出港直前に急に思いついてふらっと乗船、といったこともできない。
北大東島・南大東島では窓口は8:30から16:30まで開いているが、当日は11時までにチケットを受け取る必要がある。今回の旅では那覇港も南大東島も両方とも当日の朝に受け取り、観光してから夕方に港に戻って乗船することになった。
那覇とまりんの事務所はわかりにくい場所にある
とまりんには他の沖縄離島のチケットを購入する窓口がいくつもあるが、大東海運のみ辺鄙な場所に窓口がある。
国道58号線沿いのターミナルビルには入らずとまりんアネックスビルの方に行くと、オリエンタルホテルの向かいに「なんかのオフィス?」といった感じの大東海運のブースが見つかり、そこが窓口になっている。電話するのもチケットを入手するのも知識がないといちいち大冒険となるのが大東島であった。
那覇港の乗船は16:00から16:30まで
泊港のフェリーだいとう待合室。プレハブの部屋に折りたたみの事務机とパイプ椅子が並んでいてとてもワイルドな空気。建築現場の特設休憩所かよ。
とまりんアネックスビルの前で久米島のフェリーが停泊する位置から更に奥に行くとフェリーだいとうが停泊しているのを見ることができる。
港内は「え?これ入っていいの?」という感じでコンテナやフォークリフトが行き来してるけど問題ない。那覇発の定刻は17時であるがそれより前の16:00から16:30までに乗船する必要があるのでこの点も注意。
鮮やかな青や緑が目立つ大東海運のコンテナ。
また、北大東島と南大東島発では新しく造成された巨大な漁港には発着しないので間違えないように。北大東島と南大東島はどちらも西港発着となり、チケット購入は北大東島は西港公園の近く、南大東島はミレニアムパーク付近に事務所がある。
邪魔にならないようにクレーンによる貨物の積み込みを見ながらフェリーだいとうを撮影。
貨物はクレーン積み込みだけど那覇では人間は歩いて乗船できる。
離島フェリーでよくあるこのタラップを踏みしめて先に進むといよいよ大東島の始まりだ。
クレーンでの積み込みを見よう!
乗船して荷物を置いたら3階の展望デッキから貨物の積み込みを見よう。
こんな感じでコンテナや乗用車が吊るされて船に積載されていく。
トラックはちょっと大変そう。
柵には積載中は近寄るなと書いてあり、「危ないから後ろ下がって!」と怒られるので見学時の位置取りには気をつけよう。強風でも起きたら人間に接触しそうな距離で積載するのでマジで危ないです。
コンテナ、車、重機がみっちり積まれて完了。
フェリーだいとう、那覇港を出港する
人間用タラップも外され、フェリーだいとう、那覇港を出港!
見送りしてくれるのは伸縮式ブームを収納したクーレン車のみ。
とまりんのフェリーターミナルビルが少しずつ小さくなっていく。
那覇国際空港に発着する航空機もよく見える。
東シナ海に沈む夕日を眺めながらフェリーだいとうは太平洋を目指す。
北大東島に到着して上陸!
翌朝、太陽を目指してひたすら進むフェリーだいとう。
定刻では8時到着のところ、7時前には北大東島が目の前に!
離島フェリーと言えば、こんな感じの横断幕や大漁旗などでの出迎えが楽しみだけど、
「いいよ来いよ」
大東島ではこんな感じでフル勃起したクレーン車が待ち構えているぞ!
上陸用のカゴがきた!
北大東島で降りる乗客は3階の展望デッキに出るようアナウンスがあり、しばらくするとクレーンで軽々と吊るされた2メートル四方くらいのカゴがすっ飛んできた。
家畜を運搬するのに使う檻みたいですね……。
大東島はサンゴ礁が隆起してできた島で絶壁しかなく、波も強くてタラップがかけられないので、ヒトの上陸は徒歩ではなく鉄のカゴに入ってクレーンで吊るされて行う。
押し込まれるようにカゴに乗り込みます。
うわー!一瞬すぎて何がなんだかわからん!
クレーン車の職人芸によりあっという間に海を越えて北大東島の岸壁に到着!
7人乗船して北大東島で降りたのは全部で5人だったかな。これに乗りたくてフェリーだいとうに乗って大東島まで来たわけだけと、最後のハイライトは本当に一瞬であっけない。ふわっと浮いたか思うとものの数秒で北大東島の上に立っていた。
着いたのは7:09分で50分以上早着だった。
しばらくクレーンで貨物を降ろすのを見る。
定刻だと北大東島を出発するのは9時だが、旅客がいないと早発するようなのでいつ出発するのかわからず、周辺の西港公園や燐鉱石貯蔵庫跡を見ているうちにフェリーだいとうは出港して見えなくなってしまった。
フェリーだいとうを使った強行モデルコース
フェリーだいとうのみを使って1回の往復航路で北大東島と南大東島を強行する場合のモデルコースを示す。南大東島先航を利用して2日目8時に到着する南大東島では降りず10時に北大東島に到着、電動自転車のレンタサイクルやレンタカーで4時間くらい周遊し、15時までに港に戻って16時発の船に乗り17時に南大東島に到着。夏なら電動自転車のレンタサイクルかレンタカーを借りて夕日を見て宿泊。3日目に南大東島を一周して15時までに西港に到着し16時の船に乗って那覇に戻る。
北大東島先航でも逆パターンで南大東島と北大東島を巡ることは可能だが、南大東島はかなり広くて時間が足りなくなるためオススメできない。
訪問した今回は北大東島先航だったので、8時頃の北大東島到着後に港周辺のリン鉱山貯蔵庫跡などを見て、売店に買い出しに来たビジターセンターの人に偶然会ってご好意で送迎してもらい電動自転車を借りて島の外周と集落周辺となる内側をそれぞれ周遊、北大東14:40→南大東15:00の琉球エアコミューターで日本最短路線を満喫して南大東島到着。ふるさと文化センターで電動自転車のを24時間借りて日没を見て、翌日の港への送迎時間までに南大東島を一周した。
現地滞在2日間で十分に大東島を満喫できたけど、南大東島はスペランカーみたいな洞窟体験をしたり夜にダイトウオオコウモリを見たりする余裕がなかったので、南大東島ではできれば2泊以上したい。那覇との往復のうちどちらか片道は航空にして北大東島は日帰りか1泊、南大東島は2泊以上できるのが理想となる。
大東島発で再びカゴに入って吊るされる
南大東島沖に停泊するフェリーだいとう
北大東島を電動自転車で半日回り、琉球エアコミューターで南大東島に到着。電動自転車を使って夕日を見ようと西港を訪問したら沖合で寝てるフェリーだいとうを発見。
最高のロケーションであった。
めっちゃ揺れるだろうけど、島滞在中もこの船に宿泊できたらいいのに。
南大東島の待合室
南大東島の西港にあるプレハブっぽい小屋。
南大東島を1泊してレンタサイクルを返却、ホテルの送迎車で西港に到着。
那覇港よりはるかにきれいで文明的ね。
役所や病院の待合室などにありそうなイスが整然と並んでおり、テレビエアコンも完備。
南大東島製造のボロボロジューシー(?)を食べる!
出港1時間までに港に来る必要があるところ、送迎の都合で1時間40分前の14:20くらいに西港に着いてしまった。フェリーだいとうへの貨物積み込みを見ながら売店で買った惣菜を食べるのめっちゃうまい。
船は波が強すぎて完全に接岸できないものの、ロープや錨で位置は固定されている。
港湾施設に打ち上げられた波は白く砕け、フェリーだいとうは湯船に浮かべた小舟のようにゆらゆらと揺れているのを見ると、クレーンでの貨物積み込み作業はかなり難しそうである。波が強いとすぐに欠航するのも納得できた。
再びカゴに入る
復路もこのカゴに乗り込みます!
今回も浮いたかと思ったらあっという間に船に降ろされていた。
上陸する時は3階展望デッキからだったけど、乗船する時は船の前方の貨物エリアに運ばれて歩いて船内に入った。
復路で乗り込んだのはわずか3人で1人は1階のバリアフリールームに入ったので2階の客室は自分をいれて2人しかいなかった。大東島の経済は港や溜池造成などの公共事業に大きく依存しているようだが、松葉杖で足を引きずりながら入っていったお兄さんを見ると労災だったのだろうかととても心配になった。
しばらくするとカゴは北大東島に戻されていった。
先程までこんな風にクレーンで吊るされていたんだなあ、としみじみ。
クレーンで小舟が降ろされて錨を回収。係留ロープも外されていよいよ出港の時を迎える。
上記は小笠原諸島の写真。
離島の見送りと言えば、こういう島総出なものを想像して涙が出そうになるけど、
見送りはまたしてもクレーン車のみである。
ぼくには直立不動のクレーン車が悲しげに手を降っているように見えた。
そして翌朝。日の出前に那覇港で出迎えてくれるのは、伸縮、回転、前屈しかできない不器用なこいつだけだ。
タラップを踏みしめると「大東島から帰ってきたんだ」と実感でき、しばらくクレーンでコンテナを積み出すのを見て港を後にした。檻にブチ込まれてクレーンに吊るされる空中散歩という忘れられない貴重な思い出をありがとう!
絶海の孤島で空中散歩を楽しむ公共交通アトラクション
フィリピンで第二の人生を歩んでいるらしい先代フェリーだいとうの模型。
訪問時は、シケのために元々予定されていた日程から4日遅れで出港。復路は問題なく帰れたが、次の航海はシケのために出港が6日遅れになっていたのを見ると、今回の旅では無事に往復乗船できたのはとても運がよかった。大東島の滞在が土日になってしまったので、休業のため工場見学など一部観光できず仕舞いになってしまったところもあり、南大東島はまだまだ訪問した場所も多く残っているため、機会を見つけてまたあのオリに入りたいと思う。
ちなみに、2011年にはカゴが新調されて屋根と窓付きの家型ゴンドラが導入されたらしいけど、わざわざ船で大東島まで行こうする極まった観光客には不評で元に戻されてしまったのだそうだ。
内地では社畜として毎日ボロ雑巾のように働いているのに、こんな絶海の孤島にまで来てわざわざ家畜の檻に自ら入りたがる人類の習性にはとても考えさせられるものがあった。