キリマンジャロのアルーシャからタンザニア旧首都ダルエスサラームまで夜行列車二等寝台で鉄道旅


キリマンジャロの拠点都市アルーシャから旧首都ダル・エス・サラームまでタンザニア鉄道Tanzania Railways Corporation(TRC)の二等寝台客車を利用。※2022年10月11日: 食堂車以下を追記


タンザニア鉄道概要


Jkan997 2011 / CC BY 3.0

タンザニアの路線図はこのようになっており、タンザニア鉄道は線路幅1000mm(赤色)、ダル・エス・サラームからザンビアのニュー・カピリ・ムポシへ直通するタザラ鉄道(タンザン鉄道)は1067mm(オレンジ色)となっている。

ダル・エス・サラームから西へ行き新首都ドドマDodomaを通ってキゴマKigoma、ムパンダMpanda、ムワンザMwanzaを結ぶセントラルラインCentral Lineと、キリマンジャロ山に近いアルーシャArushaを結ぶアルーシャラインArusha Lineが国内輸送を担当するタンザニア鉄道の主な路線となる。


スワヒリタイムな長距離列車時刻表


タンザニア鉄道公式サイトより。

訪問時の長距離列車の時刻表はこのようになっており、ダル・エス・サラームからキゴマ・ムパンダ・ムワンザ・アルーシャへ週1~3便

ダル・エス・サラーム-モシ-アルーシャのアルーシャラインは長らく運休が続いていて、アフリカやアジアが掲載される最後の号となった2013年の「ヨーロッパ鉄道時刻表」にはアルーシャラインは掲載されていなかったが、2022年の訪問時には復活していたので行程に組み込むことができた。

タンザニアには6時と18時を「12時」とするスワヒリ時間というのがあり、時刻表の時間に+6時間してやる必要がある。


スワヒリタイムな近郊列車時刻表


ちなみにダル・エス・サラーム近郊列車はプグPuguとウブンゴUbungoを結ぶ2路線あり1日3往復ずつ。

もれなくスワヒリ時間なので6時間を足して午前だと12を超えたら12時間引いて換算してやる必要がありややこしい。

アルーシャ線は所要18時間30分+遅延

  • ダルエスサラーム 月水金14:30発→モシ翌日06:30発→アルーシャ09:00着
  • アルーシャ 火木土 14:30発→モシ18:30発→ダルエスサラーム翌日09:00着
現地に掲載されていた時刻をまとめると、ダル・エス・サラーム-アルーシャ間は始発駅を14:30に出発して所要18時間30分となる。

タンザニア鉄道の線路状況はよくなく、遅延が当たり前なので余裕を持った日程が必要である。なお、バスの方が圧倒的に速いのでアフリカで鉄道に乗るのは限界旅が好きな人以外オススメしかねる。


モシからダル・エス・サラームまでの料金表


  • 三等座席: 16500シリング
  • 二等座席: 23500シリング
  • 二等寝台: 39100シリング
モシでダル・エス・サラームまでの二等寝台を購入したら、3段寝台とはいえ2400円くらいで14時間30分寝台客車に乗れるわけで興奮しないわけがない。ちなみに、モシ駅ではVISA、Masterのクレジットカードが使用可能だった。

結局、バスで始発のアルーシャまで移動して始発駅から乗車したので、差額2000シリングくらいを支払って乗車変更した。遅延が多い夜行列車の旅ではできるだけ始発から乗るのが鉄則となる。


始発のアルーシャ駅から客車に乗り込む


アルーシャのバスターミナルからアルーシャ駅の徒歩経路。



アルーシャのバスターミナルから1kmくらい歩くとアルーシャ駅が見えてくる。

駅長は女性でめっちゃ優しい人だった。底辺の人はマジでめっちゃウザいけど一定の所得や教養がある人はとても優しいのがアフリカである。

クソ英語とVoiceTraやGoogle翻訳アプリでスワヒリ語を変換して会話すると、乗車変更や写真撮影がOKで出発30分くらい前から乗車できるとわかったので、徒歩とタクシーで国立博物館やアルーシャ宣言記念碑などの観光地を巡って時間を潰した。



車止めが終着点であることを物語っている。



18時間30分お世話になる列車がこれだ。

「運転席の写真を撮らせて!」と聞いたらさすがに無理だった。


2014年韓国製の客車

成信車両科技製造


客車製造はSung Shin Rolling Stock Technology Limitedで中国語表記だと成信車両科技というあまり聞き慣れない車両メーカーだった。

飲み物の広告がラッピングされており、ヒョウが描かれているあたりとてもアフリカっぽい。



タンザニアの鉄道は2014年製造から10年経たずしてこの有様である。


三等座席車両


三等の座席車両は2+3列のボックスシートが並ぶ。

アジアのように荷物棚、上着かけ、扇風機もある。日本の鉄道のボックスシートと比べると足元は広いが、荷物をいっぱい運ぶ人がすし詰めで座るのであればとてもきつそう。


二等座席車両


二等座席は2+2列のリクライニングシートが並ぶ。

座席の転換はできず進行方向と逆向きになる場合がある。一部テーブル付きのボックスシートで電源コンセントも備えている。


二等寝台車両


二等寝台の3段寝台。

ダル・エス・サラーム-アルーシャ間、というよりおそらく現状のタンザニア国内列車ではファーストクラスは存在しないでは?



座席の背もたれになっている部分を引き上げると中段の寝台が完成する。

上段へ上がるための階段は2つしか段がないため、最初は下段寝台に足をかけるしかない。



  • BF型電源コンセント×1
  • 天井に壊れかけた扇風機と爆音ラジオ
  • 水道と洗面台
  • 各寝台にネットの小物入れ
  • シーツのみで枕や掛け布団なし
  • 部屋の内側から鍵をかけられる
タンザニア鉄道の二等寝台の設備はこのようになっていた。電源コンセントが1つしかないのでUSB分配器を持っていってみんなで分け合おう!

ちなみに、客車と寝台はチケット購入時に指定されるが、自分の寝台はすでに別の人が寝ていて「絶対動きたくないマン」になっていたので、車掌から隣の車両に移動しろと言われ、最終的に3人しかいなかった個室に移動となった。わりとフレキシブルなので周りの乗客と車掌に何でも相談してみよう。



窓はこの有様である。

寝台客車の部屋と廊下は窓を開けて外を見たり物売りから買い物することが可能。

ただし、アルーシャか-モシ間は大量の砂が入ってくるため窓は開けない方がよい。そもそも、窓を開けていないはずなのに個室で充電しているスマホに地層のように砂埃が積もっていく姿を目の当たりにしてアフリカの大地のヤバさを実感した。


トイレやデッキ


客車のデッキには水道が設置されているものの、石を詰められて使えなくなっているものもあり、メンテナンスはお察しである。



乗客の民度もお察しである。




垂れ流しのため停車中は使用禁止となるトイレは洋式と中華和式。

アフリカのトイレはトイレットペーパーなどほぼないため紙は持参する必要がある。


荷物車


アルーシャ-モシ間は荷物車が連結されており大きな荷物や物流用に使われているようだった。料金は不明。


モシ駅で2時間停車と方向転換


16:30頃モシ駅に到着。

モシでは進行方向が逆になり機関車の前後入れ替えと荷物車の切り離しが行われていた。ちなみに、折り返してダル・エス・サラーム方向に行かずにこのまま進むとケニアへ線路がつながっているものの、貨物のみで旅客は運行されていない。



停車時間は2時間で砂だらけの車内清掃も行われるため全員が外に出る必要がある。個室に荷物は置いていって大丈夫と言われたが心配なので持ち歩いた。

18時になるとタンザニア国旗を下ろし全員が立ち止まって敬意を表するタイみたいな儀式が行われる。




ウシ、ヤギ、地鶏……。前日の夕方は実にのどかな風景が広がっていた。

モシはあまり大きい都市ではないので、徒歩やタクシー貸切にして2時間のうちに観光するのもありであろう。モシは登山客か宿からキリマンジャロを眺めたい人のみが滞在すれば十分で、時間がない人はアルーシャに滞在した方が楽しめると思う。


食堂車とモシの屋台料理

食堂車とメニュー



食堂車はこのようになっており、売店コーナーでおつまみやペットボトル飲料を買うことができる。

調理場の奥の方でアーモンドを炒ってつまみ食いしている風景を目撃したのだけど、さすがに撮影させてはもらえなかった。



スマホをめっちゃ充電してるな!



タンザニア風ピラフとビーフシチュー、10000シリング(600円)。

二等寝台では個室で注文を受けて持ってきてくれる。主食は米、チップス、ウガリ、メインは鶏、牛、魚などから選択可能。


「フィッシュとチップスだな」

「イエス!」





「すまん、フィッシュもチップスもなかったわ」

「もうビーフとライスでいいです……」


揺れる車内なので仕方ないとはいえスープの量がめっちゃ少ないのはなんとかならんのか。



朝食時間帯はパンが積み込まれていた。



スパイスの効いたチャイをいただく(500シリング)。

タンザニアは第一次世界大戦以降はイギリスの植民地でインド人奴隷も大量につれてこられた歴史的背景からチャイも名物である。

注意点として、「タンザニアの水道は歯磨きでも使うな!」と言われるほどでスープやコーヒーなど加熱した水も危ないのでタンザニア鉄道とタザラ鉄道の食堂車でも気をつけた方がよい。おそらく配管やタンクが腐っている。タンザニアとザンビア滞在中はずっと下痢気味だったので、胃腸が弱い人はボトルに入った飲料以外は摂取しない方がよいであろう(外資系ホテルやクレジットカードが使える高級店はたぶん大丈夫)。

しにたいやつだけが食べることを許される限界のアフリカグルメ、それがタンザニア鉄道の食堂車飯だ。


モシ駅の屋台料理


タンザニア風オムレツのチプス・マヤイと串焼きミシュカキ(mishkaki)。

モシの停車中に駅前屋台で食べたタンザニア料理。フライドポテトを卵で閉じたチプス・マヤイは屋台料理の定番でミシュカキもわりとよく見かけた。



甘くないバナナを焼いたものと硬いケーキ。

その他、野菜をドーナツ状に揚げたもの、蒸し芋、切っただけのサトウキビを道端で100シリング(6円)で買って食べたりした。

サトウキビは硬いスポンジから汁を吸い出すとほんのり甘く、残った繊維は吐き出す。


2時間遅延してダル・エス・サラームへ到着


アフリカの大地に沈む夕日。

線路幅は1000mmなので日本の鉄道と同様結構揺れるものの、寝られないというわけでもなくない。スリに気をつけてカバンを抱きかかえるようにして寝ていたが身の危険を感じる場面はなかった。



タンザニアの夜明け。

アフリカの大地はポイ捨てにより街はゴミだらけ、立ちションベンによるおしっこの匂いがただよいめっちゃ汚いのだが、夕焼けと日の出だけは息を呑むほどきれいである。




いかにも「世界の車窓から」っぽい風景。

途中駅はカラフルな民族衣装を着て頭に山盛りの野菜や果物を乗せた物売りで溢れていた。



中国が建設した電化された真新しい線路が見える。頼むから安定してそうなあっちを走ってくれ!

タンザニアの鉄道高速化計画は中国とトルコ+ポルトガル企業が受注して1435mmの標準軌で建設され、韓国ヒュンダイ・ロテムが電車、マレーシアが機関車を納入するそうで完成する日が楽しみである。

正直なところ、長距離の架線維持は大変なので10年くらいで不通になるんじゃないかと思ってるけど。



線路内立入禁止なんて知ったこっちゃない。



ダル・エス・サラームの超高層ビルが見えてきた!



高架新線と並走して終着点へ。



かまた駅に到着!

2時間遅延して20時間30分となった旅路の終点はまさかのKAMATAステーションである。ダル・エス・サラーム駅は新しい駅を建設中で使用できないので、1つ手前のかまた駅が現在のダル・エス・サラーム駅となっているようだった。

品川や東京駅へ行くと思っていたら、まさに蒲田駅で降ろされたのである。

建設中のダル・エス・サラーム駅に隣接する中心街へは徒歩も可能だが、Uberでトゥクトゥクかバイクタクシーを使った方がよい。


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