ミケランジェロ広場から見下ろすフィレンチェの夜景
コミックゼノンで連載、16世紀初頭でルネッサンス発祥の地フィレンチェを描いた大久保圭先生の「アルテ」。画家がまだ職人と捉えられ、女性は嫁いで子供を産むしかなかった時代の貴族家に生まれた主人公アルテは、女というだけでまともに話も聞いてもらえない中で画家を目指し弟子入りできる工房を探す。
再現されるフィレンチェの街並み
丘の上にあるミケランジェロ広場から見下ろすとフィレンチェの街並みやアルノ川が見え、そして花の聖母マリアを示しフィレンチェとルネッサンスの象徴であるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂はアルテ作中で頻繁に登場する。
高さ85メートルのジョットの鐘楼からの景色。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂は1296年から172年をかけて建造されドゥオモには3万人が収容できるというから驚き。アイドルマスターシンデレラガールズの舞台探訪でドイツとピサを訪問したついで立ち寄った際はかなり混雑しており、展望台となるのは円屋根クポーラとジョットの鐘楼の2つあり共通券で入場できるが、ジョットの鐘楼の方がすいておりクポーラも入れて街並みの写真を撮れる。
正面のファサード。アルテの時代には上半分は未完成であった。写真右端にジョットの鐘楼が見える。
差別意識と戦いながら動き回るアルテがとにかくかわいく、時代に基づいたフィレンチェのきれいな背景美術や生活描写も見どころ。
時代考証で再現されたTVアニメ「アルテ」のフィレンツェ
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の奥に小さく見えるのはヴェッキオ宮殿。
レオナルド・ダ・ヴィンチが幻の壁画「アンギアーリの戦い」を描いているので、今後ストーリー上で登場する機会がありそう?
フィレンツェ最古の橋であるヴェッキオ橋。アルテの時代はまだ建物の構造が橋全体を覆っておらず、アルノ川に張り出したバルコニー状の構造もまだなかったのがわかる。
エンディングの最後はサンティッシマ・アヌンツィアータ広場がモチーフかと思ったけど、似たような場所は他にもありそう。
左右の建物と左端の噴水は似たように見えるけどどうかな。フェルナンド1世騎馬像は16世紀末期以降に建てられていると思うので、16世紀初頭のアルテの時代にはまだなかった。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。
写真の右側はサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の正面にあたるファサードで、これが完成したのは19世紀になる。
しかし、アルテの16世紀にはファサードは下半分しかできておらず、丸窓のある上半分は細かい装飾が施されていないのがわかる。
現在のファサードはネオゴシック様式が足されているので下半分も比較すると細部がかなり異なる。
大聖堂付属博物館にあるかつての姿を再現した模型や絵画を見ると、アルテで描かれる大聖堂はほぼ同じになるようで、TVアニメ「アルテ」ではしっかりとした時代考証によって16世紀初頭のフィレンツェやヴェネツィアが作画で再現されるとわかり、今後の展開がとても楽しみになった。
ちなみに、アルテの工房と小屋があるのは、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂が見える角度から大聖堂の北側と推測される。
朝日は東から昇るが、ちょうどアルテの左側に太陽の光が見えるので、アルテが南を向いているのは間違いないと判断できた。
フィレンツェの中心部から少し北に外れた場所に画家の工房が多いのかと思って少し調べたけどわからず。
家庭教師となる水の都ヴェネツィア
ドSロリだった貴族令嬢カタリーナの家庭教師となるためアルテはフィレンツェからヴェネツィア共和国へ。
カタリーナの家や海上から見た風景はイマイチどこかわからない。
ヴェネツィア共和国の政庁であったドゥカーレ宮殿。
ドゥカーレ宮殿には総統府としての機能の他に牢獄や裁判所などもあり、囚人が最後にヴェネツィアの美しい風景を見てため息をつくという言い伝えから有名な「ため息橋」と繋がっている。アルテがヴェネツィアで粗相でもして逮捕されることがあればお世話になることになるだろう。
16世紀とほとんど変わっていないが、頂部に立っている像や3階の窓など細かい部分が異なっているのがわかる。
ドゥカーレ宮殿は海側と側面の2面が通りに面しているが、どちらと比較しても完全に一致はしなかった。
国際港湾都市であったヴェネツィアにはスペイン人やギリシャ人など多様な人種がいた。
ドゥカーレ宮殿前の海沿いを東向きに見た構図になるけど、現代では歩道部分がだいぶ拡張されているのがわかる。
ヴェネツィアンガラスでできているというガス燈も16世紀では当然存在しない。
ドゥカーレ宮殿やヴェネツィアのシンボルとなる鐘楼は16世紀と変わらない風格。
サンマルコ広場方面を眺める。
サンマルコ寺院の装飾やドームは16世紀ではまだ完成していなかったのがわかる。
ヴェネツィアをS字状に走る大運河のカナル・グランデ。
現在のリアルトの橋は16世紀後半にできたようで、アルテの時代はまだ木製であった。厳密に調査してないのでもし違う橋だったら教えて下さい。
アルテはこのようにフィレンツェからヴェネツィアに舞台を変えて物語が進行する。イタリアに統一される前の16世紀のヴェネツィア共和国と現代のヴェネツィアを比較することができ、TVアニメ「アルテ」を見る楽しみがまた増えた。
「アルテ」というタイトルと主人公に込められた意味
・arteとは – コトバンクそもそもタイトルにもなっている「アルテ(arte)」は英語ではアート(art)となるイタリア語で、ラテン語のアルス(ars)を語源とするarteは、作品の舞台となる中世ヨーロッパでは「技術」という意味で用いられ、後に美を表現する術という意味付けがされたようだ。
タイトル名と主人公の名前に「アルテ」とつけた本作品は、画家が職人から芸術家へと少しずつ移り変わりゆく時代の中で、時の流れと共に意味が変遷していったarteのように、絵を描き続けたい主人公アルテとその周りの変化を描いていくという含みが込められていることが想像できる。
再生という意味を持つルネッサンス(renaissance)時代は新しい価値観で文化の転換期となったが、女であることに臆することなく情熱を持って行動するアルテはこの作品において人々の職業、男社会、生きることに対する見方を変えるルネッサンスそのものになるに違いない。花の都フィレンチェでアルテはどのような道を進んでいくことになるのだろうか。
※初稿2015年、2020年TVアニメについて追記
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