2005年7月26日にアーケードで始まったアイドルマスターから10年が経った。
私は「アイドルゲーム(仮)」という名前でビジュアルが初公開されたのをニュースで見て「アーケードでギャルゲとか売れなさそう」と特に興味を持たずにブラウザのタブを閉じた記憶があり、そのタイトルがまさか10年間終わらず西武ドームを2日間埋めるまでに成長する日が来るとは全く予想できなかった。このアイドルマスターの原点であるアーケードが残した伝説について誠に私的ながら実際に目にしたものを振り返ってみた。
Contents
ゲーセンでギャルゲをやるという高いハードル
伊織から飛んできたメール。
念のため簡単に説明しておくと、アーケードのアイドルマスターは、タッチパネルを使ってミニゲームのレッスン、ギャルゲのようなコミュニケーション、オンラインで対戦するオーディションをこなしながらトップアイドルへと導くアイドルサバイバルゲーム。アーケードゲームなので、Bランク以上に上げて解散コンサートを成功させトゥルーエンドを見る難易度は結構高かった。
そもそも、ゲームセンターという公共の場で女の子が歌って踊ってる映像と音楽がガンガン流れる異様な空気が漂う中で、画面にタッチして攻略上アイドルのおっぱいに触るいわゆるパイタッチをする必要もあり、まず筐体に座って遊ぶところからハードルが高かった。
しかも、1アイドルを最後までプロデュースすると1万円以上かかり、更に携帯電話のメールアドレスを登録しておくとアイドルから「事務所に来なさい!」といういわゆるキャバメールが飛んできて日時指定でゲーセンに行かないと行けない囲い込みシステムがあり、2000年前後くらいのノベル形式のエロゲブームの余波がまだあったご時世の中では非常にお金のかかるゲームだった(その後のコンプガチャで更に突き抜けることになるけど)。デフォルトの料金設定である3プレイ500円は「1アイマス」とまるで通貨単位のように呼ぶPも少なくなかった。
こういう偏ったゲームだったのでコアなプロデューサーを囲い込めたゲーセンはよかったけど、ロケテストの数字だけ見て筐体を買ってしまったオペレーターは大損こいて今でもこの筐体を恨んでいる人は少なくないと聞き、閑古鳥のなくゲーセンからはどんどん撤去されていく。そんな感じだったので「このままではアイマスが終わってしまう!」という空気が常に漂っていた。その後、年一回のライブが開催され、Xbox360用が発表されてタイトルとしては次につながったが、やり直しのできない緊張感やゲーセン独自のコミュニティなどがあってコンシューマに移植されて以降もアーケードにこだわってをプレイし続ける人も多かった。
そして、サービスは5年間続くことになり、最後の日を迎えるまでには様々な逸話が生まれることになった。
設置店舗巡りで全国巡業するプロデューサー
アーケードアイドルマスターにはこれまで遊んだ設置店舗や回数を閲覧できる「出勤簿」というシステムがあり、これを利用して全国の設置店舗をスタンプラリーのように渡り歩くプロデューサーがいた。
元々シューティング繋がりで同じ事務所だったおワットるP(と愉快な仲間たち)と愛知県や「北へ。」の舞台探訪で訪れた北海道の設置店舗をいろいろ回っていたらだんだん面白くなってきて気がついたら舞台は全国へと移っていた。
出勤簿のシステムが110店舗までしか表示されないバグを発見し、古いのから削除されては困ると知人3人がメールを送ったらほぼ即日対応されるというエピソードもありながら、撤去されて設置店舗がどんどん減っていく前に掃討するという泥沼の戦線へと発展していくことになる。
日本最北端のアイマスだった光速憧路。夜行バスで行ったら漫画喫茶のくせに24時間営業じゃなくて最寄りの南稚内駅に退避して寒さに震えた。
そして、おワットるPは2006年12月に536店舗で全国制覇。最終的に643店舗を達成。詳しいことは忘れたけど、ディレ1かアイマスガールズ(声優さん)のサイン入りリライタブルカードが送られてアイマスチームから表彰された。今じゃ一プロデューサーにそんなことするなんてありえないだろうからかなりレアな出来事だったんじゃないかと。
今じゃIngressなどの位置ゲームが腐るほどあるが、来週撤去されると判明した店舗があれば有給取って突撃するとか、どこそこの系列店舗だからこの台は次にあそこに行くと推測して長期戦略でルーティングをするなどなかなか高度な技術が必要とされるゲームになっていた。アイマスの位置ゲームでフィーチャーフォン用のアイドルマスターモバイルエリアゲームやiOS用のアイモバiの廃人Pは設置店舗巡りからシフトしたPが結構いる。
・対談 ~おワットるP×ドゲラザク~
設置店舗巡りについての詳しい話はパイタッチ神のドゲラザクPとの対談にまとめられている。ちなみに、おワットるPは2000通以上あるメールを全部見ようとあと少しのところまで集めた活動もやっていた。何かのインタビューでメールはちゃんと女性スタッフが書いているというのを読んだことがあるが、2000通以上こだわって書くのもそれを集めるのも大変だなあと思う。
・全国のゲーセン回って389店舗! アイドルマスター設置店舗巡り全国制覇達成!
私は389店舗という実に誠に平凡な記録ながらサービス終了間際にギリギリで達成。
なお、出勤簿の記録をいくら増やしてもゲームへの利点は一切ない。
サーバーを破壊したプロデューサー
2008年9月5日、自分がこれまでプロデュースしたアイドルのファン数を合計する「有名プロデューサーランキング」でそれは起こった。
ミストンPがファンを稼ぎすぎて累計ファン数10億人を突破。しかし、ランキングには10億の桁が存在しなかったためか各種ランキングの更新が行われなず停止してしまうという不具合が発生。
10億人を突破したにも関わらず9月5日時点のランキングでは999,999,985人で停止、9月7日には「アイドルマスターチームで想定していたファン人数を超える累計となったため集計プログラムが誤動作した」というような障害情報が発表されて復旧作業が行われ、999,999,999人でカウンターストップとなった。
スコアのカウンターストップはハイスコア業界ではよくあることながらサーバーが誤作させるというのはなかなかないんじゃないかと。そりゃ、アイマスチームも中国やインドの人口クラスのファンを集めるなんて想定してないのも当然か。この一件でサーバーを破壊したプロデューサーとしてミストンPの名声は不動のものとなった(たぶん)。
ちなみに、2009年2月に事務所のアイドルのファン数を競う「事務所ランキング」でも10億人が達成されたが、こちらはさすがに不具合は発生しなかった。
・10億のケタ足りず アーケード「アイドルマスター」に不具合発生
・961プロがなんと10億人のファンを獲得
山陰から消えたアイマスを復活させた男たち
鳥取のホビーショップレアリア。
稼働開始から4年が経った2009年に入ると設置店舗の撤去に歯止めがかからずいよいよサービス終了か?という不安も高まってくる。2009年2月28日にプラボ鳥取が閉店によって山口・島根・鳥取の山陰からアイマスが消滅するという深刻な事態が発生。
このまま撤去されていく姿を指をくわえて見ているだけではいけない!
設置店舗がなければつくればいい!
と立ち上がったP達が現れた。しかし、法人しか契約できないオンライン回線を引くという最大の問題に直面することになる。
今出屋鉄拳塾。
島根県には鉄拳が好きすぎて民家に鉄拳だけを置いた「今出屋鉄拳塾」というゲーセンがかつて存在し、アイマスも利用していたセガのALL.NETというシステムを契約する方法をドゲラザクPにくっついて取材に行ったことがあった。
ウマPが発見したヤフオクの筐体を落札したり、アイマスオンリー同人誌即売会で、ねこPがあさぽんこと下田麻美さんの故郷である鳥取にアイマスを復活させるために募金活動をしながら会場内を回っていたら「そういうのは困る」とスタッフに怒られて固定された場所を設けたエピソードなどがありながら、Pが一丸となって山陰に設置店舗が復活したのであった。
・設置店がなければ創ればいい! 鳥取にアイマスを復活させた男たちの挑戦
・山陰最後のアイマス、プラボ鳥取閉店にPが集結
・鉄拳が好きすぎてALL.NET契約しちゃった島根県の「今出屋鉄拳塾」が14年の歴史に幕
スタッフも遊びすぎた最後の日
ナムコ中野(旧プラボ中野)。
そして2010年8月31日、5年に渡ったアーケードアイドルマスターのオンライン稼働は最終日を迎える。この日は如月千早役の今井麻美さん、秋月律子役の若林直美さんとオンライン対戦できたり、ナムコ中野で小山順一郎Pが最後の挨拶をするなどお祭り状態。
ド平日なのになぜかみんな中野にいたんだよな!
稼働終了に向けた最後の花火で、オーディションのNPCにディアリースターズから日高舞やサイネリアが参戦したりPとして小山Pや坂上Pが参戦してきたり、筐体のペーパークラフトのデータが配信されるなど「予算なし・愛のみ」の企画が実行された。
音無小鳥さんがアイドルとして登場するのって後にも先にもこれだけじゃ?アイマススタッフも相当遊んでたよね。
・ネットワークサービス終了に向けてバンダイナムコがサヨナラ企画を開催!
・「予算なし、愛のみ」 ACアイドルマスターのラスト1ヶ月を彩る様々なイベントが公開!
・残り1ヶ月に迫るAC「アイドルマスター」にサイネリアや961社長が続々と参戦!
・765プロの事務員・音無小鳥さん(二十ちょめ歳)がついにアイドルマスターにデビュー!
・AC「アイドルマスター」最後の日 小山Pの挨拶にナムコ中野が燃え上がった!
作り手の想像を超える
・PS3だけじゃなかった! 「アイマス」でも"うるう年"バグが発生!?「みんなで鍛える全脳トレーニング」へのコンバートも含めた設置店舗の撤去以外にも不具合がいくつかあって何度も終わりかけたアーケードアイドルマスター。5年間サービスを継続させることができ、他プラットフォームでの展開へと広げ10周年という記念すべき日を迎えることができたのは、スタッフとプロデューサーが一体となって盛り上げることができたことが、アイドルマスターが終わらないコンテンツとなった所以であると言えるだろうか。今回紹介したエピソードは自分が実際に見たほんの一部であり、知らないだけでもっとすごいこともたくさんありそう。
個人的にゲームが他のアニメやマンガなどと異なる点として「ゲームのプレイヤーは作り手の想像を超えるために存在している」と勝手に思っているのだが、400万人のファンを持つユニットの出現や上記のPにまつわるエピソードがそんな感じで、10年続いた1つの原動力になっていんじゃないかと思った
伝説はまだまだ続く?
・FrontPage – アイドルマスター設置店舗情報Wikiオンラインサービスは5年前に終了してしまったものの、外神田のHeyや大須のアーバンスクエアなど設置店舗がいくつか残っている。リライタブルカードやHDDなどの消耗品が課題のようで徐々に減ってはいるようだが今でも大切に残されて触れられるようになっている。設置店舗に関しては店と交渉して勝手にスタンプラリーをやるなど紹介しきれない二次創作的な活動も多かった。これらは今思えば公式と一緒に何かをやるリアル765プロの企画にも繋がってるかなあ?
・5年間の思い出が詰まった1/12アーケード筐体を組み立ててみた!
・コミスペ6でアケマス筐体稼働!アイマス10周年の歴史を展示
オンラインサービス終了後には1/12アーケード筐体のプラモデルが出たり、10周年記念でコミケットスペシャルに展示するPがいたりするのを見ると、アーケードだけ見ても今後もまたとんでもない逸話が生まれてしまいそうな気もする。
ランキングで上位を狙うためにオンラインに人の少ない深夜早朝にゲーセンに通ったり、アイドルから送られてくるいわゆるキャバメールで時間ないのに会いに行ったりして、「日常を変えるゲーム」にしばしば日常をぶっ壊されたこともあったけど、新しいP仲間ができたり喧嘩したり、P同士で結婚する人が出たりで、様々な出会いのあったアイドルマスターという伝説を今後も応援していきたいと思う。
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